2008年7月5-6日

奈良県 上北山村 白川又川 岩屋谷

 

PENTAX K20D smc PENTAX DA16-45mmF4ED AL

 

7月5日、ついに岩屋谷に挑んだ。登山道を行き、滝前に降りる方法も考えたが、雌滝、雄滝はもちろん、豪快な岩屋谷を見たく、谷を遡る計画でいく。しかし、選択、判断ミスの連続、体力、技術も伴わず、厳しい洗礼の連続であった…

 

 

単独では行きにくい谷、岩屋谷はそんな所らしい。今回は、S君にラブコールを送り、計画が実現した。彼は、沢登りは未体験だが、フルマラソンを走り、高山に登り、最近ではアルパインクライミングを志す猛者だ。彼の勧めもあり30mザイル、15mお助けヒモ、テープシュリンゲとロープシュリンゲを数本、カラビナを数本とエイト環、そしてハーネスを装着した。この時点では、ザイルは殆ど必要ないが、せっかくなので懸垂下降等の練習をしようと軽い気持ちで用意した。

 

6時30分、岩屋谷の橋のところから林道を歩いて、林道の終わりから入渓、最初から水に浸かりジャブジャブと進んでいく。撮影機材の他、ビバークの為の装備一式や食料でいつもよりザックが重いが快調だ。やがて綺麗な釜を持った小滝が現れ本格的になってきた。

 

PENTAX Optio W60

 

そしてゴルジュ状となり最初の関門の10m斜瀑、際どい左岸を行けるか検討するが、最初から落ちてもシャレにならないので、手前の枝谷から巻くことにする。ところが、この枝谷を登っても弱点が現れず、それどころか20m程の滝が立ち塞がる。ここで間違いに気付けばよかったが、気持ちが高ぶっていて、この滝を越えようとしてしまう。

 

S君が滝横の壁を登るが、どうも途中で詰まって動けない様子、急いで右岸から巻き気味に登って、太い木でビレイを取り、上からお助けヒモを下ろす。S君がハーネスにお助けヒモを装着し、上から引っ張りながら登ろうとするが、お助けヒモは細くてうまくいかない。そして力を入れて引っ張った次の瞬間、お助けヒモが私の手から跳ねて飛んだ。一瞬何が起こったのか分からなかったが、S君が滑落してぶら下がっていた。エイト環での確保を知らない私は、指の皮がずるりと剥け、手がジーンと痺れてもう引っ張ることすら出来なくなった。それでもさすがはS君、自力で何とか登ってきた。

 

ここで戻ればよかったが、何故か私はさらに上を目指してしまう。今度はきちんとザイルを使おうということになり、S君に確保してもらって上に登っていった。しかし上はさらに厳しさを増し、単独では絶対に登らないような壁が続いている。ザイル確保という安心感から無理をしすぎたのか、足に力を入れた瞬間ズルッと滑り、体が壁を落下していった。何かを掴もうとのたうちまわり、幸いにも大木に抱きつくような格好で止まった。

 

協議の結果、とにかく戻って、もう一度斜瀑の横を行けないか確認しようということになった。練習しようと言っていた懸垂をぶっつけ本番でやらなければならない、S君がエイト環にザイルをセットし操作を教えてくれる。そして失敗しても絶対に落ちないようにカラビナを使ったバッチマンを補助にセットしてくれた。恐々、懸垂下降を開始し途中よろけながらも成功。そして斜面を降り、さらに懸垂を繰り返して降りていった。

 

本流の近くまで戻ると、なんと枝谷に入って直ぐの斜面にトラロープを発見、かなりの急斜面だが、どうもここが巻きルートらしい。時間は昼を過ぎて12時30分、もう6時間も過ぎてしまった。気を取り直し、立ち木や根っこを掴んでどんどん登って行く、かなり高くまで登らされて今度は反対側を急降下、ようやく最初の関門を越えることができた。

 

ここからは、目印を見逃すまいと進んでいくと左岸にトラロープが懸かっている。この先は淵が続いているので、左岸斜面を巻くのかとトラロープを掴んで登っていく、ところがかなり登ったところで行き詰まり進めなくなってしまう。あのロープはいったい何だったのか、仕方がないのでアンザイレンで確保し一人ずつ降りていく。使うかどうか分からないと思っていたザイル等、持ってきた装備をフル活用だ。

 

下に降りてトラロープの用途を考えるが、ロープで登ったところから小さく巻くこともできない、これはロープを掴んで振り子のように流れの中を進む為の物としか考えられないので、その通りに滑りやすい流れの中を行くと無事抜けることができた。さっきはロープを見逃して失敗、今度はロープを見つけて失敗、時間ばかりが過ぎてなかなか先に進めない。

 

PENTAX Optio W60

 

この後、巨岩を越えたり、すり抜けたり、美しい連瀑を気持ちよく登っていくと左岸から大きな枝谷が入り、右岸にも本流が分かれたと考えられる大きな滝が落ち、真ん中は大きな釜を伴った小滝、そして小滝の横に大きな壁といった場所で詰まってしまう。もう夕方の5時に近く、少し戻って幕営しようかと考えるが、もう少し行ってみようとS君が空身で際どい壁を登る。ザックを荷揚げし、私も空身で登った。

 

そのまま右岸を巻いていくと45mの大滝が見えてきたが、滝手前迄来て簡単には降りれそうもない。S君はテープシュリンゲを駆使して何とか降りたが、恐怖で固まってしまった私は細い木ながらセルフビレイを取り、どうしたものかと考えていると、S君が下からお助けヒモを投げてと言っている。お助けヒモを投げるとうまく岩に固定してくれたので、ようやく降りることができた。

 

PENTAX Optio W60

明日は、このルンゼを登らねばならない

 

45m滝の周りは高い壁に囲まれ、巻きルートは右岸の急峻なルンゼ、もうヘトヘトでとても進めそうに無く、狭い川原と岩の上で幕営となった。S君がストーブでご飯を炊いてカレーを作ってくれた。私は必死で焚き火を起そうとするが、ここには湿った枝しか無く、なかなか本格的にならない。それでもカレーを食べながら枝の配置を工夫していると、乾いてきたのか火が強くなってきた。そして持ってきた肉を焼いて食べると、今まで食べたどの肉よりも美味く感じた。S君もワインを飲んで上機嫌だ。コーヒーをドリップし、ザックの中でペシャンコになった巻きパンも焼くと膨れてカリカリ、サクサクと美味い。空には満点の星が輝き、至福の時が過ぎていく。滝の飛沫が降ってくるのでフライングタープを三脚を支柱に地面スレスレに設置しシュラフに潜り込んだ。疲れていたが、興奮した脳みそと火照った体の為か、よく眠れないまま朝になった。

 

PENTAX K20D smc PENTAX DA16-45mmF4ED AL

 

朝食を済ませ、ゆっくりと準備をしていると、谷に太陽が差し込んできた。青空をバックに滝の白と緑が輝き誠に素晴らしい。予定では、昨日には雄滝前に達し、このような光景を迎えるつもりだったが、今いる場所は、かなり手前だ。先を急がねばならないが、ゆっくりし過ぎて8時20分の遅いスタートとなってしまった。

 

先ずはこの大滝の巻き、右岸ルンゼから登って行く。巻くというより、まさに登攀、途中からやや傾斜が緩くなるものの高度感が強く、最後まで気の抜けない登りで、最初から咽がカラカラになってしまった。滝上は穏やかな流れで始まるが、やがて巨岩帯となり、一人では登れない大きな岩が次々に現れる。ショルダーや足を押さえたりで一人が登り荷揚げ、上からシュリンゲで引っ張る。狭い隙間の忍者のような登り、淵に浸かって渡り巨岩の下を抜けたりと、もう何でもありといった感じで力を合わせ進んでいく。

 

そして両岸立った滝が行く手を塞ぐ、ここは滝を直上し上部の滝裏を這って潜るのがルートらしい。ザックにカバーをかけ、S君が滝に取りつく。危なげなく登って滝裏に突っ込んだが、なかなか出てこない。どうしたのかなと見ていると頭が見えてくるが、そこからもかなり苦労している。

 

PENTAX Optio W60

滝裏へ突入していく

 

さあ、私の番だ。気合いを入れて最下段に乗り上げると、もうそれだけで顔面にシャワーが襲ってくる。下から見ているのと実際では大違いで、滝裏に突入する前にもう全身ずぶ濡れだ。滝裏に入ると容赦なくザックに水が打ち付け、ザックが傾いてくる。出口が極端に狭くなっていて、出れそうで出れない。足を動かすが、つるつるの岩盤はグリップが悪く、じりじりと進んでようやく脱出した。しかし、滝上に立つとあまりに爽快感が素晴らしく、お互いの濡れた姿を見て笑い、歓声を上げた。

 

PENTAX Optio W60

 

PENTAX Optio W60

 

この後も美しい滝やナメ、巨岩を越えて進んでいくと左岸に大岩壁が立ってきた。大岩壁に沿った谷には巨岩が詰まり、チョックストーン状のいくつもの滝を懸けている。そして、ひときわ大きな骸骨の横顔のようなチョックストーンにぶち当たる。左上には、連瀑となった滝が続いているのが見え、右の大岩壁の奥には雌滝と思われる大きな噴射が木々の隙間に見える。

 

PENTAX K20D smc PENTAX DA16-45mmF4ED AL

 

あまりに素晴らしい眺めだが、ここは、多くの沢屋さんがこの谷の核心部とする難所、何とか越えなければならない。戻って大高巻きするか、際どい右岸スラブを登るか。右岸スラブに残置ハーケンがあるらしいので、下から見上げて探すが、見つからない。ザックを置いて巻きルートを見に行くが、こっちも容易ではなさそう。戻ると、S君が壁を入念にチェックしている。そして「登れます」と一言、空身の方が楽だが、万が一の滑落時に脊柱を守れるので、ザックを背負っていくという。支点がないので確保にはならないが、ザイルを結んで壁に取りつく、少し登ったところで残置ハーケンを発見しシュリンゲとカラビナでビレイを取り右に移動、そして直上から左に折り返し、安全なテラスまで登り切った。

 

素晴らしい瞬間に酔う間も無く、私も続いて登って行く、不安定な姿勢でのビレイの回収にビビったが、何とか登ることができた。次の狭いところは簡単に見え、ザイルワークからも私が先に登ったが結構際どい登りだ。上で岩にビレイを取り確保、S君も登った。さあ、雌滝はもうすぐだ。雌滝の上部がはっきりと見えてきた。大岩の隙間を潜って、さらに幾つかの岩を越えて雌滝前に達した。

 

PENTAX K20D smc PENTAX DA16-45mmF4ED AL

 

時刻はお昼を過ぎて13時頃、天気が悪くなってきているが、巨大な水のカーテンが誠に素晴らしい。上から優しい飛沫が降り注ぎ、それを浴びながら休憩、行動食を食べた。S君はカリントウ一袋を瞬く間にたいらげ、私はSOYJOYを数本。山で食べるSOYJOYは、なかなか美味く、気に入った。

 

PENTAX Optio W60

 

PENTAX Optio W60

 

滝下に近づけば、大雨のようなありさまで、水が風が巨大な風景の中を過ぎていく。何故かS君が「めたきー、あー」と叫んでいた。

 

PENTAX Optio W60

 

13時40分、雌滝の巻きを開始し右岸の大きなルンゼに入っていった。最初は何でもないが、右の枝ルンゼに入ると、細い垂壁に腐葉土と落石が詰まる絶悪ルンゼ、正しいルートかどうかも分からない。時折、上にいるS君が「 落、落」と叫び石が落ちてくる。また、殆ど登攀といった状態になるが、ホールドになると思った岩はすぐにはがれ落ち、木も根っこもなく非常に厳しい。途中、掴める木があり、右方面にグイッと上るとさらに枝分かれした細いルンゼが上に伸びているので、私はこっちの右ルートを行く。しかし、ここも水を含んだ腐葉土が崩れ落ちるばかりで、なかなか進めない。足を深く突っ込み、手で腐葉土を掘ってホールドを探すが何も無く、腐葉土を少しずつ固めて進んでいく。気がつくとかなりの高度のある場所で下を見ると非常に恐ろしい、ズルッといったら一巻の終わりだ。昨日の滑落が脳裏をよぎる。ようやく根っこが一本あり、そこにセルフビレイを取ったところで行き詰まってしまった。後10m程だが、手がかりを見つけられず考えていると、直上していたS君が何とか登ったみたいで、上から呼んでいるので、声を出すとこっちのルートの上にやってきた。ザイルを投げてもらい、ハーネスにセット、「せーのー」で腕と足に渾身の力を込める。ところが、S君がザイルを引っ張る力はさらに強く、私の体は腐葉土を滑って上に達した。

 

大きな滝音とともに雄滝が見えるが、かなり登りすぎたかもしれない。今度は雄滝前に向かって比較的緩い斜面を降りていく。そして、ついについに、最終目的地である雄滝に達した。雌滝から1時間20分を費やしていた。(15時)

 

PENTAX K20D smc PENTAX DA16-45mmF4ED AL

 

雄滝は、あまりに巨大、下から見ると少し圧縮されて落差が少なく見えるかもしれないが、少し上から見るとその大きさがよく分かる。上部の爆裂した水が分岐していく様は、雄大かつ秀逸だ。汚れ無き壮大な大地に涸れる事無く流れてきたであろう悠久の水、それが今、成し遂げた達成感に注ぎ込んでくる。

 

PENTAX K20D smc PENTAX DA16-45mmF4ED AL

 

さあ、長い下山が待っている。ゆっくりする間も無く15時30分、降り出した雨の中を登山道に向け出発した。しかし、朝から不調であった体力も切れてしまったようだ。何より雄滝に達したことから気力の低下が著しい。1時間かかって登山道まで登った。雨が強くなり、豪雨になってきたが、雨具も着けずにそのまま登山道を降りていく。ふらついて歩き、少し傾斜が強くなると踏ん張りが利かず、なかなか前に進めない。途中ルートミスもあったが、日が暮れて、ヒメボタルの飛ぶ中をヘッドランプで進み、最後のピーク675m地点に達した。

 

PENTAX K20D smc PENTAX DA16-45mmF4ED AL

 

ここから登山道をそのまま水尻へ降りるか、北へ岩屋谷橋の駐車地点へどんぴしゃりで降りれるというショートカット道を行くか、最後の選択をしなければならない。水尻へは、暗くても明瞭な登山道を問題なく降りれるだろう。しかし、国道と林道をさらに歩いて車まで戻る必要がある。北へ行けば、車の横に降りてくるはずだ。二人で協議するが、大きな大きな選択ミスをしてしまう。疲れているので直線距離で短い北へ向かう。大丈夫というあまい考えだ。しかし、多くは踏まれていないであろうこの道を夜に歩くのは、あまりに無謀だった。途中から全く不明瞭になり、登ったり降りたりを繰り返すばかりになってきた。雨が上がって一旦乾いた服は、汗でまたぼとぼとになり、休憩すると自分の周りに湯気がたちこめた。それでも水音が聞こえてきて、だんだん近付いているのは間違いなくなってきた。

 

しかし、最後の最後でお手上げに近くなり、S君はビバークの覚悟まで決めたようだ。それでもあきらめずに道を探していると、S君が不明瞭ながら下に続く道を見つけ、急いで降りていった。そしてヘッドライトで照らした先に何かを見つけ、「橋があるー」と叫び、そのまま下まで降りて、大きな大きな雄叫びを上げた。22時を前にようやく車に辿り着き、長い長い岩屋谷の二日間が終わった。S君には感謝してもし切れない、彼なくして今回の行程を抜けることは、とても出来なかったと思う。