2015年8月9日
蓮川 奥ノ平谷
魅惑のゴルジュ・・・
ゴルジュ、廊下、そんな言葉を聞くだけで、困難なルートの突破の喜びを連想する者、また渓谷美を愛する者は、その独特の造形に触れてみたいと思う。臆崖道さんと山ノ神さん、パンダと小さいパンダ、それぞれがそれぞれの想いを胸に秘めて・・・
いやいや、今回は、おそらくそんなには方向性が変わらないだろう四人で、サスケ滝までの日帰り作戦。
林道ゲートを越えたところから踏み跡を辿って川に降り、ゴーロを少し歩けば、大きな釜に最初の滝が落ちる。これが、初音滝とされる滝だろうか。
いきなりの泳ぎになるが、嫁さんは何時もながらに嬉しそう。
穴潜りではなく、滝身から強引に登ってみたが、思ったよりしんどかった。この後、力を使う場面があるはずなので、ちょっと失敗。
側壁が狭まってきて怪しげな雰囲気。いよいよ始まりか。
さっきより大きな釜に小さな滝。この奥に魚止滝があるのだろう。
さてさて撮影。まだとても暗いゴルジュの中、光が十分に届かないが、PLフィルタとレンズを通った光をスローなシャッターでセンサーに集光させる。
戻滝という名のごとく、どうせ戻ってくることになるのだろうが、前進前進。魚止ノ滝を見ない訳にはいかない。
山ノ神さんのラッコ泳ぎにはびっくり、足が前にあるにも関わらず安定した泳ぎで前に進んでいく。
魚止ノ滝。暗く閉ざされた静かな世界。早くも突破できない閉塞感が極まる。
それでも、しばらく見ていると、何となく登れそうにも見えてしまう。おくがけどさんに見てきてくださいと言うと、ロープを引っ張って颯爽と泳いで行く。しかしながら、やはり簡単には登ることが出来なさそう。
諦めたのか大の字になって天を仰ぐと、山ノ神さんが、すかさずロープを引っ張って引き寄せる。おお〜っと、素晴らしい連携プレイ、何時もやってるのかな。
予定通り泳いで戻るが、この行って戻っては、苦労というより早くも面白さ満載といった感じ。嫁さんはラッコ泳ぎを真似てるつもりだが、それ方向が逆やで。
右岸巻きルートの取り付きの壁は、下部が抉れている。残置ロープを使って空身で登り、新たなロープを使ってザックピストンから全員が登る。
魚止滝の落口。なかなか良い眺め。
沢に戻ると、直ぐにまた滝。
奥ノ平の無名滝には、松阪山岳会が名を付けたとされるが、これは淵滝で間違いないだろう。
水量が多くはなく、突破は容易。
そして沢が左に急転回し、目の前には素晴らしい世界。斜めった岩峰が聳え、両岸触れ合わんばかり。何時も思うが、こんな独特の造形は如何にして生まれたのか。
この奥が仙人滝か。僅かにしか見えない白泡が、冒険心をかき立てる。
突入突入。不気味極まる狭きゴルジュ。
突き当たりから今度は右へ屈曲。
どこから出てきたのか、ずっこけてる嫁さんを見て、おくがけどさんがスルスルとお助け紐を降ろしてくれる。
下段?を登った上には、滑り落ちる美しき滝、これが仙人滝か。
滝として水量が多いだけが良いとは思わない。美しい軌跡と澄んだ壺は、この程度の水量ならでは。大水量では、透明感のある壺を決して見ることはできないだろう。
山ノ神さんトップで取り付く。嫁さんのショットだが、なかなか決まってる。
ところが、支点がとれないままの左岸直上は危険。左〜と叫ぶが、水流で聞こえないのかもしれない。突破ルートが脳みそに叩き込まれている私が追いかける。
嫁さんは途中から右岸に渡ったが、おくがけどさんは中央突破。
上から見下ろしても素晴らしい造形。
直ぐ上にも滝が続いているが、この滝は何滝?
この切れ込んだ沢にも、ようやく光が届きだし、何時もながらに嬉しい瞬間。
少し進むと明るく開けたところで、またまた谷が右へと急転回し滝がかかる。
光を浴びて輝きまくるこの滝は、双曲滝か双頭滝か。法螺貝滝の一つ下流の滝とすれば、この滝は双頭滝。もしそうであれば、双曲滝は、どの滝なのか。仙人滝からここまでは、仙人滝直ぐ上の滝以外に顕著な滝があった記憶がなく、滝があったのなら撮影していたようにも思うが、覚えてないだけかもしれない。
う〜ん、考えれば考えるほど難しい。
落水は美しい壺へと白泡をたてて飛び込み、何故か不思議な色を伴い溢れゆく、その途切れのない営みを見ていると、とても癒されるが、一方で暗く狭いその先も気になる。
左から巻き上がり落口。
続くゴルジュの中は、下から見ていたよりも明るい。小滝がかかり、この滝にも名前があるとすれば、また違う考察ができるだろう。但し、これらの名も無き滝達に土地の人ではなく山岳会が名付けをしたのなら、あまりこだわる必要はないのかもしれない。
側壁だけでなく前方も壁に塞がれ行き止まりとなるが、お決まりのように右へ曲がってゴルジュの中に落ちる滝が登場。
法螺貝ノ滝。これまた凄い造形だが、それは同時にこの先への前進を困難なものにしている。それでも、光と影が作る眩い世界は、威圧感を感じることなく、美しさで魅せてくれる。
おくがけどさんは、泳いで右岸に乗り込み、頑張って撮影していたが、私は、ここからのキラキラとした眺めで十分に満足。
法螺貝滝の突破は、ゴルジュの入口まで戻って右岸巻き。右岸からの巻きルートには、驚くことに古い感じのテープが、ちょこちょこと付いていた。
懸垂もなく沢に降りると、穏やかな渓相。前半と違う明るい遡行が気持ちいい。
しかしながら、またゴルジュっぽくなり、泳いで中へと入っていく。
すると、右岸からの支流滝と奥の暗いところに落ちる滝が合わさる美しい光景に出会う。
そしてそして、大きな壁が囲むように立ち塞がり、今日のクライマックスを迎える。
鎌滝が落ちていたのは、壁が抉れた大きなドームの中。
ドームの中の僅かなスペースに立てば、その異次元空間に言葉も出ない。ぐるりと取り囲む側壁は、見上げるばかりに高く、まるで鎌滝を守るように隠すように圧倒的。
僅かな隙間から降り注ぐ光が、壺に湛えられた水の揺らぎを美しく照らし、神秘なる水の深みへといざなっているよう。そこに落ちる白き水、優しいながらも大ホールに響き渡る滝音。まさかまさか、これほど素晴らしいとは、これ程に美しいとは。
その夢のような世界に打ちのめされる。
見た目の美しさとは裏腹に、滝頭とその周辺は、これ以上ないように輝き、写真的には白飛びとハレーション必至の困難な状況。時間をかけてシャッターを切るが、撮ることができたのは、ほんの数カット。
嫁さんが釜で泳ぎだし、気持ちよさそうにぷかぷかと浮かぶと、それを見ていたおくがけどさんも、たまらなくなったのか追従。深い谷間に至福の時が過ぎていく。
鎌滝は、左岸巻き。おくがけどさんが垂らしてくれたロープを使い小さく巻き上がる。お次に現れたのは、岩が鎮座する中岩滝か。
右岸支流黒滝谷にかかる滝にも行ってみたかったが、時間がかかりそうなので諦める。
大石滝が見えてくる。
滝前にある大きな岩が大石滝の名の由来か。
そこに乗っかってホッと一息。鎌滝の後では、ちょっと気の抜けた撮影になってしまった。
左岸から巻き上がると摂津道からのルートに合流し佐助滝へ。
三年前の春、初めて対面したサスケに較べると、随分と水量が少ない。しかしながら、滝に被さらんばかりに茂る緑は、その時には見ることができなかったもの。豊かな自然を感じる今日のサスケは、とても美しく、どちらかと言えば、より魅力的だと思う。
欲を言えば、これに豊かな水量を伴う姿を見てみたいものだが、その静かな佇まいは、ここまで遡行して到達したことを祝福してくれているようだった。
帰りの摂津道は、一度歩いているので問題ないと思っていたが、これが大間違い。往復ではなく遡行後に片側から見ると非常に分かりにくく、飯場跡までかなり時間がかかってしまう。この後、暗くなってしまい、小さな沢やルンゼを跨ぐ度にお決まりの不明瞭なポイントが現れるが、何とかこなして無事帰還した。
奥ノ平谷は、この界隈の例に漏れず、歩いていると僅かながらも泥や砂の影響を感じるし、紀伊半島においては極上な渓相と言えないかもしれない。しかししかし、屈曲を繰り返しながら突き上がっていく狭き廊下は、大自然の驚異そのもので、素晴らしい造形美に満ちていた。
滝メグラーの間では、紀伊半島といえば、大瀑、豪瀑の宝庫という認識。だがそれは、紀伊半島のほんの僅かな面を見ているに過ぎす、紀伊山地に刻まれた渓谷に落ちる美しくも素晴らしい滝を代表する姿では決して無い・・・
尚、奥ノ平谷の読み方は、紀峰山の会、宮田俊英さんの2002年の記録によると、地元役場への問い合わせで「おくのひらだに」と確認されたそうである。
臆崖道さん、山ノ神さん、どうもありがとうございました。
撮影機材
OLYMPUS OM-D E-M5 Mark II
M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
RICOH WG-4 GPS
RICOH WG-5 GPS
大峰や台高は本当に素晴らしい場所がたくさんあるんですね♪
いつもながら素晴らしい写真に感動しています。
それ以上に、ハードな遡行をこなされるパンダさんに感動を覚えます(‘◇’)ゞ
リンクも張っていただきありがとうございます。
私も少しずつ無理のない範囲で、大峰や台高の自然を楽しもうと思っています。
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
パンダさん、お見事です!
smallパンダさん交えていいですね。写真!!
わたしが下ノ廊下を辿った時より水量は少なさそうですが、素晴らしいレポに写真です。
釜滝、いいですよねぇ~。何度も通ってるサスケ滝より環境的にもいいと思います。
中岩滝も、水量多いとオモシロイんですけど。
地元の名前と松坂山岳会が付けた名前との判別は、わたしの持っている資料からは判別が着け難いんです。
魚止め、仙人、ホラ貝、釡、大石、サスケ、辺りは先人の名称なんだろうなと思うけど。
双曲滝は、双頭滝の下流のナメの滝なんだと思う。
崎山晃一さん
いつもコメントをくださりありがとうございます。
大峰、台高は本当に素晴らしく、この地では普通にあるような美しい渓谷の姿も、他では中々見ることが難しいとさえ思います。
今は、仕事の関係で遠くなってしまいましたが、頑張って通いたいと思っています。
zippさん
お褒めの言葉をいただきありがとうございます。
やっと行けたというのもあり、感動も倍増でレポにも力が入りました。
鎌滝は本当にびっくりで、おっしゃるように全く乱れのない環境共々、素晴らしさに満ちた滝だと感じました。
ご推薦の水量が多い中岩滝も気になりますが、水量が多い鎌滝もこれまた見てみたいものです。
滝名は、zippさんですら判別が難しいのなら、永遠の謎かもですね。
法螺貝のゴルジュ入口にかかる滝が双頭滝、下流のナメ滝が双曲滝。これが最も妥当なのでしょうが、悲しいことにこの下流のナメ滝を思い出せません。
今度行くことがあれば、じっくりと確認してみたいと思います。
仙人滝の登攀では、山ノ神をヘルプしていただき、ありがとうございました。
カムか何かでランビレを取る能力がないのに、稀に突然、難度の高い登攀を試みる気になることがあり、そこが凸凹コンビの一端でもあります(盆休みでも、例の谷の最奥にある障壁12mCS滝を直登するとか言い出して、びっくりしました)。
いつもながら私のできない撮影とデジタル処理に感嘆しております。
鎌滝のハレ切りは、完全に消去されているのか気になっていましたが、53に代表されるように、実に美しく、名画にように残されているのはさすがです。
今回いちばん驚いたのは38の画ですが、輝く滝と、陰になっていたポットホールの明暗差がいかんともしがたく、減光して滝に露出を合わせ、それから暗部を持ち上げるというフツーの手法で描いたと思うのですが、私の画ではポットホールがまだ暗いです。パンダさんはHDRは使わないと言われていたので、どういうテクニックがあるのか、興味深いです。
この「ハイライトが飛ばないように露出を合わせてから暗部を持ち上げる」展開ですが、持ち上げたときの元暗部のディティールは当然ながら荒れます。この荒れ度合とセンサーの大きさ(大きさを議論するのはお嫌いだというのは知っての問いですが)、ひいてはダークノイズ耐性とは関係があるのでしょうか。
おくがけどさん
とても楽しく感動的な遡行になりました。ありがとうございます。
下山の失敗は、お許しいただければ幸いです。
さて、ポットホールに注ぐ強烈な明暗差の滝ですが、単に暗部を持ち上げるとすれば、4EV程度は持ち上げる必要がありますね。
そのような手法でもある程度の再現は可能ですが、おっしゃるように色々と荒れてしまいます。
例外があるにせよ、このような場合の耐性には、より大きなセンサーが有利なのは間違いありません。マイクロフォーサーズ的には最も苦手とするところです。
しかしながら、大きなセンサーであっても無視できない程に荒れてしまいますし、その程度が少なくなるというだけで、苦労することなく撮影できるというものではないと思います。
やはり、何らかの工夫が必要ですし、後処理のみならず手間暇かけた撮影がキーとなりますから、それなりの時間がかかってしまいます。それでも、そのような苦労を惜しまなければ、小さなセンサーであっても、そのメリットを最大限に生かせると考えています。
HDRは、もちろん試してみたことはありますが、動きのある水はもちろん、木々の揺らぎでも思わぬ結果になってしまいます。また、ローコントラスな画になることが多く、好みではありません。
「より大きなセンサーが画質が良い」このようなお墨付きの概念は、同じ技術で作られたセンサーであれば、ノイズ耐性やダイナミックレンジなどにおいては間違いなくそうですが、大きなセンサーなりの苦手な点を併せ持っていることを知る必要があります。それらは、工夫やテクニックでは克服しにくいものでもあり、必ずしも一般的なお墨付きが全て正しいとは限りません。
先日もお話ししましたように、もっと大事なことがあったりします。例えば、被写体が歪むなどといって敬遠される電子シャッターですが、高速で動くものが対象でない風景撮影においては、計り知れない恩恵があります。ペンタのRRやオリのHRモードは何故に電子シャッターのみなのでしょうか。このことは、微細なブレを排除できないフォーカルプレーンシャッターでは、きちんとした画が生成できないと認めている訳で、それだけでなく普通の撮影でもフォーカルプレーンシャッターでは、ブレていない写真を撮ることが難しいことの証明に他なりません。
いらないことまで書いてしまったかもですが、今のカメラは魅力的なカメラばかりで、実際に使ってみたいカメラが一杯あります。突如大きなセンサーのカメラに乗り換えているかもしれません。
consumer向けには出てないかもしれませんが
電子シャッターでも、種類があって
CCDは高速で動いてても大丈夫です。
また、CMOSでも、グローバルシャッターというCCDと似た方式のものは
高速で動いてても、電柱が斜めに映ったりすることはありません。
CMOSで動いてると斜めに映るやつは、ローリングシャッターですけど
なぜ、ローリングシャッタータイプが多いかってゆうと、センサーデバイスを小さく出来るし安く作れるからです。
consumer向けのCMOSイメージセンサデバイスは ここ10年ぐらい、高画素化のみが進んでて、後はISP(画処理)でキレイにしてる感じですけど、そろそろ、革新的なモノが出てくるかもしれませんねぇ。。。なんて。妄想でした。
Powさん
CCDなら歪まないとうのは知りませんでした。
そういえば、CCDは電子シャッターでもグローバルシャッター(こう呼ばないのかもしれませんが)が普通と聞いたことはありますが、そのことによりそうですね。
CMOSでのグローバルシャッターを切望する声は多くあるようです。しかしながら、その殆どが動画を多く撮影するユーザーからのもので、静止画ユーザーからは、あまり聞かれません。まだまだEVFや電子シャッターなどには否定的な意見が多く、残念なことです。
革新的なセンサーについては、私も妄想しております。
CCDでローリングシャッターはありません。
CMOSグローバルシャッターは産業用途(自動検査その他)で既に使われてますので、その内consumer向けに出るかもしれませんが、メーカーさんの中の人らが、ペイすると見るか否かですね。グローバルシャッターかつ高画素というのはムズいらしいです♡
powさん
産業用では、CMOSでのグローバルシャッターが既に実用化されているんですね。
で、ちょっと調べてみましたところ、高画素機もあるようですが、価格が載ってないんで・・・
やはり相当コストがかかるということでしょうか。
色々とあるのかもしれませんが、一般カメラにも普通にグローバルシャッターが搭載されて欲しいです。
global shutterのimage sensorを使ってシステムを設計、開発していたのは、3~6年前になりまして、直近のコトは分かりません。当時の状況については前述のコメントに記載した通りです。consumer向けの製品を作っている会社にお願いしてみたらどうですか?
あとは今 流行りのクラウドファンディングとかで開発するとか。
http://www.jma.or.jp/tf/ja/kousei/M06machin.html
↑こんな展示会に行けば、多分、一般のかたでもglobal shutterのセンサのデモとか見れます。
powさん
展示会があるんですね。
なんか興味大です。
一般用デジタルカメラにグローバルシャッターが搭載されないのは、フォーカルプレーンシャッターが最高という概念が根強いことやグローバルシャッターが製品の売りになるとメーカーが考えていないのも大きな要因かもしれません。
沢登りやったことないですが、見て、すごく写真の撮り方も上手ですが、
こんな綺麗な景色が日本にあるのかと思うと、やってみたくなります。
とても面白かったです
TTTさん
ありがとうございます。
沢登りに興味を持っていただけたようですね。
俗世界から隔絶されたような、想像を超えるような世界があったりします。
沢を登るという行為自体も面白いことですが、綺麗な景観に触れることは何よりの楽しみです。