自由…
デジタルカメラでは、何かと話題になるRAWとJPEG。同じカメラが生成したものであっても、この二つは全く違うものであるが、カメラの評価においては、それらを混同したり都合の良いように使われている。
また、ネットを彷徨っていると、そんな評価に一喜一憂するカメラファンやRAWというものを誤解しているような記述が少なくない。分かっている人には何を今更という感じだろうが、少し書いてみようと思う。私は技術的なことや理論的なことは分からないので、全て結果に基づく分析である。
現在の殆どのカメラが使用するセンサーは、入射する光の量を捉えることができるのみで、ベイヤーパターンなどのカラーフィルターにより、RGBそれぞれの光の量に比例するグレースケール値を生成する。RAWファイルのピクセル情報には、カメラに設定したホワイトバランス、コントラスト、シャープネス、彩度などは記録することができないので、これらの情報はメタデータとして記録される。
したがって、RAWで記録する場合、カメラに設定しなければならない項目は、基本的にISO感度値、レンズ絞り値、シャッタースピード値のみで、他の項目を調整しても、生成されるRAWファイルのピクセルデータには全く影響しない。例えば、撮影時に一生懸命ホワイトバランスを調整しても、写真としての結果には何ら関係なく、撮影後に背面モニタ等で画を確認することがあれば、その見え方が変わるだけである。
「ホワイトバランスを間違ってしまったが、RAWで撮ってたので救えた。」「RAWなら後からホワイトバランスを調整できる。」「RAWなら劣化無しにホワイトバランスを変更できる。」これらの概念は、結果としてはそうであるが、根本的なところで誤解している。
それでは幾つかの画を示そう。下の三枚はE-M10 II で撮影したカメラ生成のJPEG。カメラのホワイトバランスをそれぞれ太陽光、電球、蛍光灯に設定して撮影。
下の画は、上の1枚目のJPEGと同時に生成されたRAWファイルをLightroomのACR(Adobe Camera Raw)デフォルト設定で現像したもの。メタデータから撮影時のホワイトバランス(太陽光)の設定値を読み込んでいる。もちろん出てくる画は、カメラのJPEGとは違う。
次は二枚目のJPEGと同時記録のRAWをACRデフォルト設定で現像。同じく撮影時にカメラに設定したホワイトバランス(電球)の設定値を読み込んでいるので、JPEGと同じような色合いになっている。このようなことからRAWでもホワイトバランスが関係あると認識してしまうのかもしれない。
ところが、ACRのホワイトバランス設定を太陽光にすれば、下の画になる。カメラに電球を設定しているが、出てくる画はカメラに太陽光を設定した画と全く同じである。
次は、蛍光灯に設定して撮影した例。
RAWデータは、RGB別のグレースケール値からデモザイクと呼ばれる現像により構築されて初めて普通の画になる。RGB別のグレースケール値にホワイトバランスなどの概念は無く、カメラにどのようなホワイトバランスを設定しても生成されるRAWファイルのピクセルデータは全く同じである。ピクセルデータにホワイトバランスは記録できない。
RAWで記録するなら、後からホワイトバランスを変えることができるのではなく、現像時に設定するものであり、しなければならないものである。このことは、コントラスト、彩度、シャープネス等においても同じだ。
ホワイトバランスはこのくらいにして話を変えると、このメーカーのカメラはこんな色だとか、特定のメーカーのカメラの色が好きだとか、そんな話題でよく盛り上がるが、これらはメーカーや機種のJPEGエンジンが作る話であってRAWではあまり関係がない。二大メーカーの違いをIMAGING RESOURCEからデータを借りて検証してみよう。
Canon 5D III JPEG
Canon 5D III RAWをACRデフォルト設定で現像。
Nikon D800 JPEG
当然ながら、Canonとは色合いもタッチもかなり違う。
Nikon D800 RAWをACRデフォルト設定で現像。
もちろんRAWであっても違う。違うセンサー、カラーフィルター、ACRデフォルトの設定の違い等々、こちらも当然の結果。
D810 JPEG
最近、Nikonの色が変わったという噂もJPEGならその通り。
D800 RAWをACRの設定を変えて現像。
適当にCanon風にしてみたが、ちょっとのことでこうなる。
完全に同じにするのは難しいと思うが、それに意味があるとは思えないし、この程度であっても私には、それをブラインドで当てることはできない。ColorChecker等を使ってプロファイルを作れば、さらに差が無くなるだろう。あるカメラやメーカーの色がこうだとうのは、カメラ搭載のJPEGエンジンによる個性でしかない。
写真は撮ったとき勝負。後からいじるのは良くないと主張する人がいる。しかしながら、このような主張をする人の考えに基づけば、メーカーが出すJPEGは、既に相当にいじられている。
数あるRAW現像ソフトの中で、最も高機能だと思われるのがRawTherapee。この素晴らしいソフトは、高機能故に複雑で使いこなすのが難しいが、なんとフリーで使える。
RawTherapeeで現像してみると、色々なことが見えてきて面白い。下の画の一枚目はRawTherapee Default設定での現像。カメラJPEGはもちろん、Lightroomデフォルトと較べてもかなり地味であり、マイクロフォーサーズの場合、多くの現像ソフトで強制的にかかってしまう歪曲補正すら無視されるので、写っている範囲が広い。
こちらは、RawTherapee Neutralでの現像。一見して暗いのが分かるだろうが、実は、上のDefaultは露光量が一段程プラスになっていて、Neutralはプラスマイナス0になっている。RawTherapeeでプロファイルを変えるとNeutral以外はスライダーが中心点からずれるので、より理解しやすい。
このNeutralは、カメラが生成したRAWそのものに最も近いとも言えるかもしれないが、Lightroomのデフォルトがいじられているとも言えない。ただ、Neutralが暗いのは、E-M10 IIやオリンパスのカメラが、ISO感度の基本値を200として一段暗く撮り、中間からシャドーは一段持ち上げるが、ハイライトの持ち上げを押さえることにより白飛びしにくくしていることを証明しているのかもしれない。
そんなことで、オリンパスにはISO200より低感度のISO LOWがあるが、これにより滝撮影などで、白飛びを防ぎながらシャッタースピードを遅くするなんてことはできない。これはオリンパスだけでなく、ISO拡張により低感度に設定できるカメラは同様だと思われる。
さてさて、画質的な考えとしてカメラJPEGよりRAWの方が良いなんてことも良く言われるが、本当にそうだろうか。今度は、DPREVIEWの比較ツールの画を借りて見てみよう。
RAWをACRにより現像した画。
CanonとNikonは、色モアレというのか偽色というのか分からないが、それが盛大に確認できる。こういった事が、あまり話題にならないのが不思議。
同じ画のJPEG。
綺麗に補正されている。
別の部分。
CanonとNikonは、文字周りの偽色が凄まじい。それに対してFUJIFILMの二台は周期性の低いX-Transカラーフィルターを使うことにより、完全ではないものの相当に偽色を低減している。
実際に存在しない色が出てくるのは非常に問題であり、このデジタルカメラの弱点を考えると、Foveonは別にして単層式カラーフィルターを使うカメラの中では、X-Transにもっと注目が集まっても良いだろう。画質において、FUJIFILMのカメラには大いなる可能性がある。
こちらもCanon、NikonはJPEGでは綺麗に補正。
偽色以外にもレンズの色収差等、生成されるRAWには実際に存在しない色が散りばめられるので、RAW現像をするなら、これを目立たなくする努力が必要である。プロである高名なカメラマンが発表する写真ですら、このような点に無頓着なのか、あらぬ色が目に付いてしまう写真が少なくない。
さすがにメーカーはよく分かっているのか、カメラ内現像によるJPEGでは偽色をきちんと補正しているし、色んな点で破綻のない画を出してくる。それはメーカーが考えた画の結晶であり、必ずしもRAWに劣るなんてことはない。
モアレや偽色は、周期性のある模様などに出やすいので、風景撮影においては問題ないなんて言われたりするが、とんでもないことである。指を輪にして目に当てている人の腕のあたりを見れば、変な色が乗っているのが分かるだろう。
また滝撮影においては明暗差が強いことが多く、明と暗の境目などには盛大に偽色が出る。上の画の黒バックに白文字なんてのは、滝の周りの岩盤に光が当たっている状態と非常によく似ている。
趣向を変えてカラーの部分も見てみよう。FUJIFILMのカメラは、よく言えば鮮やかな発色、悪く言えば派手。これも良く聞くことだが、RAWをACRで現像した画を見ると、そうとも言えない。むしろFUJIFILMは、Canon、Nikonよりもおとなしく地味である。
カメラが生成するJPEGでは、CanonとNikonはコントラストが上がっているが彩度が落ちたように見え、FUJIFILMは彩度が増したよう。JPEGなので何とも評価が難しいが、Canon、Nikonは偽色補正のために失っているものが少なくないのかもしれない。何れにしてもFUJIFILMのカメラの色がどうだなどと言うのも妄想に過ぎない。
また、モアレや偽色は高画素になると目立たないとも言われる。輝度モアレについては、そういうことがあるかもしれないが、偽色は目立たないどころの話ではない。
結局のところ、RAWとJPEGどっちが良いなんてことはないが、それぞれの長所と短所は理解しておく必要がある。私自身、それを考えた上でもRAWで撮ることができるカメラであれば、RAWだけでしかデータとして残さない。それは、RAWの方が可能性があると考えているからである。
写真は基本的にその文字とは裏腹に写る大部分は嘘である。広角レンズが作る遠近感、望遠レンズの圧縮感、ボケなどなど、色再現やコントラス感を含め、肉眼で見る世界とは全く違う。しかしながら、写真が本当に真を写すならば、面白くも何ともなく、写真故の表現があるからこそ面白い。
JPEGは破綻が無く無難であるが、残念ながら画像感には制限がかかってしまう。RAW、そして現像というものを理解すれば、自由に画を操ることが出来るだけでなく、より面白い世界を手に入れることが出来るかもしれない…
そうですね。小さな点像のハイライト部分がダーク背景の中で輝く星の写真では、ご指摘の通り偽色だらけです。恒星の世界では存在しない緑色の偽色が盛大に発生したりします。ローパスフィルタがあった方が偽色はマシになりますが、デジタルの宿命からは逃れられないようです(追尾精度が高い赤道儀にk-3IIを搭載して、リアレゾモードで長秒露出をしたら偽色の発生がなくなるのかどうか、一度試してみたい気はしますが)。
クオリティを下げる要因は排除又は補正すべきもの、というのは正論なんでしょうが、私は絶対的ではないと考えています。青ハロの滲みが目立つフィルム時代、そしてパープリンが出ているデジタルの星景写真でも、私にとっては称賛を送りたくなるような作品もありますし。
臆崖道さん
もちろん、作品的な観点で語れば、デジタルの瑕疵は些細なことかもしれません。
ただ、例えばパープルフリンジが出ている賞賛を送りたくなるような作品において、もしパープルフリンジが出ていなければ、より良いのではとういう考えです。パープルフリンジも作品を彩る要素だというなら、何も申すことはありません。
また、私は星の写真を撮りませんので、今回の話はそれを想定したものではなく、一般的な風景写真を想定しての話です。偽色やフリンジ等々を気にしないというより、それが出ていることにさえ気付いてないのではと感じてしまうことがあります。まあ本人が満足であれば、それで良いのではと思いますが。
3月に一回だけ、日が落ちてから2〜3ショットシャッターを切りました。お月さんが大きくて星はあまり写りませんでしたが、テントとお山は写ってました。なかなか難しいです。
画素ずらしは間違いなく偽色を軽減させますから、やってみる価値があると思います。こちらも解像度アップばかりが話題になりますが、偽色軽減のメリットは語られることが少ないです。
ご無沙汰しています。
この件、2度目の御講義受講させていただきました。
写真という文字を正当化するのであれば自らの目で見たものでしかないということでしょう。
いや人間の目で見るものも虚像かもしれませんね?
昆虫の目、動物の目に映るものはまた人とは違うかも知れません。
そうなれば触れる形だけが真実なのかも?
私が写す写真などパンダさんの素晴らしい記録には程遠いものです。
そんな私が云々申し上げるのも気が引けますが、デジタルになってから色が混じると言うのでしょうか?
リバーサルでは起きなかった現象が非常に多く感じます。
そんなことも次第に克服されて行くのでしょうね。
いずれにせよパンダさんの写真の素晴らしさにはいつも「凄いな!」としか申し上げようのない気持ちにさせられます。
すぎちゃんさん
このようなお題目にまでコメントをいただき恐縮です。
フィルムカメラにおいてもレンズ収差による色の発生はありますが、デジタルではセンサー由来のあらぬ色が加わり、より複雑になりましたね。
あまり一般的ではない、こんな風なカメラや写真の見方もあるのですよということと、おっしゃるよにそれらが克服されることへの願いです。