未来へ…


写真を趣味にするみなさんは、それなりに意識してカメラを選択し、愛着を持って使用しているのではないでしょうか。また、熱くカメラ談義に花を咲かせることもあるでしょう。ところが、撮影後のRAW現像やWebへ投稿するために必要な環境(PC、カラーマネジメント、ソフトウェアなど)や写真を鑑賞する環境の話になると、途端にトーンダウンすることが少なくないように感じます。

Digital画像の最終結果に関係があるのは、撮影における技術的な話は別にして、撮影機材の違いより上記のような撮影後の環境の違いの方が遥かに大きいと言っても過言ではないと思うのですが。

先ずは、巻頭の画のスライダーを動かしてみてください。大きな滝壺の水色の違いが見えますか…

RGB

さて、今回のお題目のカラープロファイル(ICCプロファイル)とは何でしょうか。何をいまさらという方も多いとは思いますが、私自身も分かってないことも多く、簡単に整理してみます。

一般的なRGB 8bitのデータであれば、RGBそれぞれ256階調の混ぜ合わせで色を表現しますが、ここに落とし穴があります。例えば、「R:255、G:0、B:0」であれば赤色の中の赤色なはずです。しかしながら、この赤は特定の絶対的な色ではなく、表示するデバイスごとに発色性、コントラスト、色域等に違いがあり、決して同じ色(赤)では表示されません。つまり、いつも自分が見ている色は、そのディスプレイの色でしかないのです。それなのに、その色に慣れてしまったり、それが絶対的なものであると思ってしまうのが問題です。

カラープロファイルは、このようにデバイスごとに違う色で表示されてしまう問題を少なくするために、RGBという不確定な相対的カラーではなく、デバイスに依存しないLabという絶対的なカラーを介した身上書を付けることにより、できるだけ同じ色で見ることができるように考えられた仕組みです。もちろん、ディスプレイのキャリブレーションを行い、ディスプレイにも適切なプロファイルを設定し、全体的にカラーマネジメントすることで精度が高まります。

さらに詳しい話は検索すると色々と出てきますが、下記ページは図示を交えて分かりやすいかと思います。


Digital画像を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変わってきました。以前よりAppleのMacは、Webを含めたカラーマネジメントに対応していましたが、2015年後半、新たな領域へと歩みを進めました。Display P3という広色域な色空間を持つプロファイルを採用し、Macのディスプレイも、その色域を表示できるものが出現しました。

同年、私は5Kの解像度を持ち、Display P3の色域を表示できるMacを導入しましたが、今まで見ていたのは何だったのだろうかと、それはそれは驚いたものです。欠点が無い訳ではないですが、これはもうDigital画像に対する認識を根底から覆すものだと思いました。一方で、これまでの歴史を振り返ると、この素晴らしい世界が一般的になることはないだろうという、諦めにも似た想いを抱いたのが正直なところです。

Safari

しかしながら、iPhoneが世界を大きく変えてくれました。iOS10からカラーマネジメントに対応し、iPhone7からはDisplay P3の色域を表示できる広色域なディスプレイを備えるようになりました。iOSデバイスは、以前よりRetina Displayと呼ばれる高解像度ディスプレイを持っていましたが、それにプラスして広色域に対応したことにより、表示の正確さや美しさで抜きん出た存在になりました。もはや、一般的なPCが、とても太刀打ちできるものではありません。

iPhoneで写真を撮れば、プロファイルとしてsRGBではなくDisplay P3が埋め込まれ、多くの方が色域の広い写真を楽しむことが日常的になったのです。

iphone

うるさいことを言えば、iPhoneのディスプレイは少しコントラストが強く、色合いも一台一台違います。キャリブレーションをとることもできますが、キャリブレーションされた表示は特殊なアプリを使わないと見ることができません。それでも、正確なRAW現像をしたい場合には力不足感が否めないものの、鑑賞においては他の多くのデバイスを凌駕すると思います。

巻頭の画の違いを見るためには、アプリを含めたシステムがカラーマネジメントに対応していること、ディスプレイが広色域を表示できることの二つの条件を満たす必要がありますが、iPhone7以降のDisplay P3対応モデルであれば、その違いを無理なく見ることができます。

Androidのことは全く知りませんが、情報によると広色域への対応が進んでいるようで、下記リンク先に詳しく書いてあります。ここに掲載されているsRGBとDisplay P3の比較も非常に興味深いです。


上記リンク先を対応デバイスで見られた方は、sRGBとDisplay P3の違いに唖然としたのではないでしょうか。傘が並んだ画では、Display P3の抜けるようなブルーはsRGBではくすんだブルー、レッドにいたってはDisplay P3を見た後でsRGBを見ると、まるでオレンジです。全ての色に大きな違いがあるのはもちろん、ピチピチ感や立体感にも大きな違いがあります。傘が背景に張り付いているようなsRGBに対しDisplay P3は、まるで背景から飛び出してきているようです。

違いが分からない場合は、カラーマネジメントかディスプレイ、あるいは両方が対応していないためだと思われます。違うような違わないような微妙だと思われる時は、「ワイドカラー テスト: アプリが広色域を表示できるか」の下にある正方形の赤を見てください。対応していれば、正方形の中にAndroidロゴが見えますが、対応していない場合は正方形の中が単色に見えます。

カラープロファイルによる違いは下記リンク先に掲載されている画でも確認できますので、興味のある方は見てみてください。


一般的によく使われるカラープロファイルとしては、sRGBとAdobeRGBが知られていますが、新たに登場したDisplay P3というプロファイルには、今が旬な勢いを感じます。Display P3はDCI-P3(Digital Cinema Initiativesというハリウッド映画の組織が標準化作業を行なっているプロファイル)をベースにICC規格に準じたものとしてAppleから定義されたプロファイルです。色域の広さにおいてはAdobeRGBより狭いとされることが多いようですが、よりバランスがとれた色域を持っているように思います。

下のガモットは白っぽいところがAdobeRGB、カラーがsRGBです。AdobeRGBはsRGBに較べてBからG領域が顕著に広いですが、R域には大きな差がありません。

sRGB

次は白っぽいところが同じくAdobeRGB、カラーがDisplay P3です。Display P3はAdobeRGBに較べてBからGが狭いですが、GからR域にかけて広くなっています。

Display P3

私はRAW現像にLightroom Classicを使っていますが、現像時の色空間としてProPhoto RGBが設定されています。ProPhoto RGBの色域は、ここまでに登場した三つのプロファイルが持つ色域より圧倒的に広い色域を持っていて、それを表示できるディスプレイは現実的ではありません。にも関わらず、何故にLightroom Classicはこの色空間を使うのでしょうか。Photoshopのように作業用の色空間を変更することも許されません。

未だ分からない部分が多いのですが、色々と検証を進めていて、少しは分かった部分が出てきたような気がします。

iMac

それでは、私が撮影したものに違うプロファイルを埋め込んだ比較画像を掲載します。スライダーを動かして確認してみてください。iPhone等で見る場合は、中心点を押さえてスライダーを少し動かした状態から、そのまま指をずらしても(画像の外でも可)動かし続けることができます。

Lightroom Classicから書き出す時に、それぞれのプロファイルを設定しただけで、現像設定には全く違いはありません。申し訳ありませんが、対応していないデバイスで見ると、全く違いが確認できないので面白くもなんともないと思います。

大きな釜に湛えられて揺らぐ水の色は何とも魅惑的です。しかしながら、sRGBの色域では、この怪しく美しい色を全く表現できません。sRGBの画の彩度を上げれば、Display P3の画のようになるのではと考えるかもしれませんが、sRGBの画の彩度を上げても画が破綻するだけで、このような色に近付くことすら不可能です。


グリーンな水色の滝壺。グリーンな色合いにおいても、sRGBとDisplay P3では顕著な違いがあります。


下の2枚は上と同じ画をAdobeRGBとDisplay P3で比較したものです。何れもDisplay P3対応ディスプレイでは差を見つけることができません。AdobeRGBの色域をカバーしたディスプレイであれば、違いがあるのでしょうか。



オレンジからレッドへと多彩に色付いた紅葉。

このように細やかな葉っぱの場合、iPhone等の小さめのディスプレイでは少し見にくくなりますので、拡大して見ていただけると分かりやすいかもしれません。

sRGBは澄んだレッドの表現に制限がかかります。Display P3では赤く見える右下寄りの紅葉は、sRGBでは、くすんだ感じになってしまいます。また、中央下から左寄りの塊には色付きの違う赤が織りなす美しさがありますが、sRGBでは、それを見ることができません。そればかりか、色域を超えたところがベタッと潰れるので、混然一体となってしまい、色のみならずディテールや立体感にすら差が出ています。

繰り返しになりますが、Lightroom Classicで同じRAWデータを同じ現像設定で書き出したもので、カラープロファイルの埋め込み以外に違いはありません。


同じ画をAdobeRGBとDisplay P3で比較。AdobeRGBはDisplay P3よりも色域が広いとされていますが、レッド域においてはDisplay P3の相手になりません。


同じ画をsRGBとAdobeRGBで比較。AdobeRGBはsRGBより僅かに良いですが、その差は非常に小さいです。


違う紅葉の画。sRGBとDisplay P3では、全体的なレッド感が全く違うだけでなく、中央上部僅かに右寄りのピントがあった葉っぱの辺りを見ると、色はもちろん、ディテールや立体感もかなり違います。Display P3では、小さな一枚の葉の中にも描かれる陰影により、sRGBでは見ることができない世界を見せてくれます。

下に続く2枚の画でのsRGB、AdobeRGB、Display P3それぞれの表現の違いは、他の紅葉の画と同様です。




いかがでしたでしょうか。私は、とてもとても無視できるような違いではないと思っています。

一般的なPCでは、見ることができないことも普通だと思いますが、それは制限された色を見ていることに他なりません。また、Display P3はsRGBよりも色が鮮やかであるというようなことでもありません。sRGBの色域内に収まっている部分については、大きく変わることはありませんから、見えている領域が広いか狭いかということになるかと思います。

仮に、そのような環境でRAW現像をしているとすれば、見えてない領域が大きい状態で作業していることになり、少なからず危険性をはらんでいるのではないでしょうか。飽和しているように見えている領域の先には、階調やディテール、そして知らない色が彩る世界が広がっています。もちろん、AdobeRGBやDisplay P3が十分に広い色域かどうか疑問が残るところですが、どう考えてもsRGBでは狭すぎます。

最後に私がiPhoneで画像を見るためにやっている画面設定を紹介します。
先ずは、設定から「画面表示と明るさ」に入り「True Tone」をOFFにします。True ToneはApple自慢の機能だと思いますが、アンバー系のフィルタをかけたような色になり、その掛け具合も一定ではないので、その時々で違った色になります。私は切った方が良いと判断しています。

IMG_1399

但し、「True Tone」をOFFにすると、途端に青白い色合いになってしまいますので、「Night Shift」を使って調整します。Night Shiftに入り、時間指定でNight Shiftが23時間59分間作動するように設定、「手動で明日まで有効にする」もONにします。24時間作動するようにはできませんでした。

そして、ここからがミソで、色温度のスライダーを動かして、程よい色温度になるように調整します。私は、別のキャリブレーションされたディスプレイと見較べて、できるだけ同じような白になるように調整していますが、iPhone単体では難度が高いと思います。

IMG_1399N

永らくWebにおける画像表示は限定されたものでしたが、AppleのみならずGoogleが広色域ディスプレイやDisplay P3へと舵を切ったことで、大きな変化を迎えています。Webをモバイルデバイスで楽しむことも、さらに加速していくでしょう。

今後、ますます色域の広い表示が当たり前になっていくと、Flashが淘汰されたようにカラープロファイルが埋め込まれていない画像はもちろん、sRGBですら相手にされなくなるかもしれません。

これまでは消極的選択から、写真にsRGBを埋め込んでいましたが、これからは積極的な意味でDisplay P3を埋め込んでいこうと思っています。短い期間に変わっていく世界ですから先のことは分かりませんが、現時点で撮影者ができる最良の選択ではないかと考えています…

記事作成日:2019年10月27日

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