2018年7月14日
大峰 池郷川
魂を揺さぶられて…
池郷川は、かつて「その魅力のすべてを兼ねそなえている数少ない渓谷の一つ」と讃えられたところ。そんな池郷川にまたやってきた。
この日のお題目は、昨年に訪れた池郷川ゴルジュの上中部に続く下部。もちろん、今回も下降作戦な訳だが、下部のそのまた最下部には不動滝をかけるゴルジュがあり、簡単ではないことが予想される。不動滝といえば、2013年7月13日の夜、「俺は沢ヤだ!」の成瀬さんにお会いした時、成瀬さんが酔っ払いながらも、その日登攀された不動滝について熱く語られていたことが思い出される。
林道から2013年に初めて池郷川に来た時と同じルートで川床へ降り立つ。
2013年の夏は、堰堤から上流のコンコン滝までを遡行したが、今回は不動滝を越えてゴルジュ出口を目指す。
さあ始まり始まり、滝となった落ち込み、屈曲した流れ、両岸の特異な造形、池郷らしい景観を前にいやがうえにも期待が高まる。
流れ降る水は透明かつ色が濃く、何回見ても溜め息が出る程の美しさ。
さて、ひこさんが立っているところで流れが絞り込まれている。その先に何かありそう。
覗き込んだ瞬間、ストーンと落ち込んでゆく景観に思わず声を上げる。水が、えぐれた左岸と張り出す右岸の間で炸裂し、計り知れないような深き壺に湛えられる。垂壁に隠された空間に漂うのは危険な香り。
さあ行こう。支点、下降システム、ロープ等々を入念に確認し、ゆっくりと下降開始。
バックアップのフリックションノットに体をあずけ、何枚も写真を撮ってしまう。
ひこさんも私もTシャツ一丁でやるのがスタイル。夏ならではの滝飛沫を浴びる爽快感をおもいきり楽しむ。
降り着いたところには、幸いにも立てるスペースがある。炸裂する水の音が木霊す中、表情を変えながら壺に広がる泡と、その間から見え隠れする水色に見惚れる。
ひこさんも下降開始。両岸被さるような中での滝下降が実に格好良い。
光が通り抜けてゆく足元の水は、極限的な美しさ。とてもとても言葉では言い表せない。
下流から見ると、滝は岩を回り込んだところに隠れているのだろう。ここから下流の様子を伺うことはできない。
ひこさんも、懸垂下降の途中で停止して写真撮影。
降りてきたひこさんが、なにやら注視している。よく見ると、魚がピョンピョンと叶えられることがなさそうな旅に挑戦している。しばらくの間、二人でシャッターを切りまくるが、動きがとても早く、捉えるのはなかなかに難しい。
「この滝、ひこさんやったら登れるんちゃう」なんて話ながらロープを束ねて脱出の準備。
立ち去り難い想いに駆られるが、この狭き場所に留まることは許されない。その素晴らしすぎる全てを全身に焼きつける。
そして、流れに乗って下流へと解き放たれる。体を反転させて泳ぎながら撮影するが、うまく撮れるはずはない。それでも、思い出の貴重なワンショット。
大きな滝壺を泳いで下流側に上陸。
ところで、この滝がネジレ滝なのだろう。池郷川の滝は不動滝を除いて面白い名前が多い。このネジレ滝、もう少し下流に落ちているエコ滝、他にもコンコン滝、ネジ滝とか。いったいいつ頃に誰が名付けたのか。
ここは、とても素敵な安息地。泳いだ後の降り注ぐ光は、何よりのご褒美。美し過ぎる水を前にゆっくりと過ごす。
ここから下流へしばらくは、側壁の傾斜が緩くなり穏やかな渓相。
浅くなっても、水の美しさは全く失われない。それどころか、ちょうど光の状態がよかったのか、透明感を増したようにさえ感じる。
支流に滝が落ちていたのか、う〜ん覚えていない。
そしてまた前方が狭くなり、その先で落ち込んでいるよう。
近付いてみると、溝の中を水が滑り落ち狭い水路状の壺に注ぎ込んでいる。水路を流れる水は、すぐ先で、揺らぎながら大きく広がってゆく。
この滝が、エコ滝。左岸下流寄りを懸垂下降して、壺にポチャン。
泳いで上陸したところは、またまたの安息地。迫力のある落水と大きな釜に湛えられた美しき水、エコ滝もまた、そこらにはない極上の空間。
お次は、岩と岩の間で方向を変える複雑な流れの滝。ここでも、流れ落ちた水が広がり大きな淵に湛えられる。
さて、どうしたものか。飛び込むには、高さがあるように感じて躊躇する。水面が影になっているので深さも分かりにくい。よしこれでいこうと、一旦滝を飛び越えて右岸から左岸の岩に着地、そこからまた飛んで着水。
影を抜け、滝上から見えていた明るいところに解放される。支流から滝も落ちていて、またまた美しい。
そして、池郷川左岸に長大な滝がかかる。上の方が豊かな緑にさえぎられて見えにくいが、80−100mくらいありそうな程にでかい。
この後も、さらに下降。滝や淵を越えてゆく。
泳ぎながら撮影
やがて、噂の堰堤の上。下流方向を見下ろすと、まるで池郷川は、この先で終わっているよう。ゴルジュあるあるで、90度左に向きを変えているのだろう。
降りにくい階段を伝って下へ。ひしゃげたような階段は、水の力によって削られてしまったのだろうか。
またまた水泳。影の支配が強くなってきていて、なんとなく寒い。
振り返って見る堰堤。こんなところによく作ったなあという感じ。
上陸した下流側はもう不動滝の落口。
見下ろすゴルジュは両岸触れ合わんばかり、不動滝の落水が狭き水路に突き刺さり、とうとうと流れてゆく。もう陽の恵みがない暗き隙間の先はどうなっているのか。大きな期待感と恐怖が交差する。
少し上に残置支点があったが危うそうだったので、しっかりとした支点を構築し、ここでも慎重にロープと下降システムをセット。
上からでは、水路を流れる水の勢いが分からない。シングルロープで下降後に解放されると、水量が強い場合にそのまま下に続く滝に吸い込まれては大問題。ダブルロープで下降して、着水後は上陸ポイントまで下降器の中をロープを滑らせて、ロープに繋がったままでいく作戦。
ゆっくりと慎重に下降。目前は大迫力。
滝飛沫、滝風、滝音が全身を叩きつけ、まるで奈落の底に墜ちてゆくような感覚。
そして、緊張感と気合が最高に達し着水。眺めはもの凄いが、幸いにも水の勢いはそれほど強くない。泳いで無事に右岸に上陸。
続いて、ひこさんも下降開始。不動滝をバックにゴルジュの中を下降する姿が最高に格好良い。
これくらい離れても、これくらいの水量でも、絶え間なく風に乗って飛沫が飛んでくる。ザックからメインカメラを出すものの、過酷な状況と乏しい光に満足な撮影をすることはできなかった。叶うなら、午前の陽当たりの良い時にまた来たい。
さて、ここからさらに下降して脱出しなければならない。直ぐ下に勢いのある滝が続いていて、適当に下降すると滝の真っ只中でアウト。そんなことで、ひこさんが壁をトラバースして、下流寄りの下降点になりそうなところがないか探索。すると、ハーケンの残置支点があるというので、入れ替わって見に行ってみる。その支点は、ハーケンが少し浮いていたが、ハンマーで叩きつけると安定したので、静かに下降する限りは大丈夫そう。ありがたく使わせてもらう。
再び入れ替わって、ひこさんがスルスルと降りてゆく。やがて見えなくなって、どこまで行ったのか。
合図とテンションが抜けているロープを確認し、続いて下降開始。これまた凄い眺め。
着水して泳ぎながら撮影した後、回り込む流れに沿って泳いでゆく。すると右岸の岩の上にひこさんが座っていた。
その岩の上に這い上がると、さっきの滝を少し上から見下ろすことになる。落口より上に僅かな隙間があるが、不動滝を覗き見ることはできない。
さあ、池郷川ゴルジュの真の出口。門の向こうに穏やかな流れが見える。
最後の小滝を越えて左岸へと泳ぎ着く。ここからの眺めも、この先どうなってるんとワクワクするような素晴らしいもの。
ここからは、右岸側に道が付いていて、村道池郷線の入り口へと導かれる。
流れ降る美しき水、逃げ場を見出すことが難しい高い側壁、磨かれた岩が造り上げる造形、ここもまた、魂を揺さぶられずにはいられない圧巻のゴルジュ。その中でもネジレ滝やエコ滝前の明るく穏やかな美しさは、上中部では見られなかったもの。両岸迫る不動滝ゴルジュは、決して落差では計れない壮絶なもので、そこに入れば、ネジ滝付近のゴルジュと並び、忘れられないような体験が約束されている。
池郷川、どれだけ賞賛しても賞賛しきることはできない…
ひこさん、どうもありがとうございました。
LEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm / F2.8-4.0 ASPH.
LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.
LUMIX G VARIO 45-150mm / F4.0-5.6 ASPH. / MEGA O.I.S.