01004-2-2

いちばん大切な人

このあいだ 
愛する娘と一緒に
Disneyの映画「美女と野獣」を観に行った
そのアニメを娘が小さいときから 
家族三人で何度も見たのを思い出す
始まって間もなく 
溢れ出した涙は最後までまつげを濡らし続け 
それが乾くことなくラストシーンを迎える
もちろん映画のように
素敵なものではないかもしれないが
嫁さんと出会った頃のことが
次々と頭の中を駆け巡り 
どうすることもできない
いちばん大切な人のことをずっと想っていた
横で静かに涙を流す娘が
何を感じていたのかはわからないが 
また違う意味で想い続けていたのかもしれない
03009-2
スモールパンダであり嫁さんである
真佐美と出会ったのは 
1989年
私は二十八歳
真佐美はまだ二十歳
胸の奥の震えをはっきりと覚えている
それ以来真佐美の人生は私と共にあり 
満ち溢れたあらゆる可能性を
私にくれたことになる
02008-2
真佐美とは
何時の間にか一緒に出かけるようになり 
もともと二人とも
口数が多い方ではなかったと思うが
二人でいるとお互いに気を使うことも無く
大いに盛り上がった
その後も自然と一緒に出かける機会が増えていき
その頃の私は 
そのこと自体に何の疑問も持つことは無かった
しかし今は 
これで良かったのかと自問する日々
04010-2
何故にめぐり会うことができたのだろうか
何故に私のような者を受け入れてくれたのだろうか
何故に心が通ったのだろうか
思い返してみても それが不思議でならない
06015-2
写真といえばフィルム
この世にデジタルな写真が生まれるなんて
思いもしない頃のこと 
撮った写真は多くはないが
真佐美が大切に保管してくれていた
夜景をバックにどうやって写真を撮るのか
そんなことも知らずに適当に撮った
幽霊のような写真でも 
二人が写っているだけで嬉しかったのが懐かしい
カメラごと海水をかぶったが
写真屋さんが何とか救ってくれたフィルム
埃が付いて傷が入ってしまったフィルム
どうしてもフィルムが見つからずに
唯一残っている色あせたサービス版プリント
そんな状態が悪い写真ながら一枚一枚が全て宝物
心を込めてスキャンした
05012-2-2-2
はは〜ん
ストロボが光っても動いてはいけないのか
スローシンクロによる撮影も
少しはうまくなったかもしれない
07031-2 08032-2
男なら車やカメラといった機械ものが好きなのは
普通だが
真佐美は女性ながら
私が好きなものに同じように興味を示してくれた
時々こうやって二人で写真を撮って遊んでいた訳だが
この頃に使っていたカメラは
親父のお下がりのCanonの一眼レフ
620だったかその型番すら思い出せないが
このカメラのことは決して忘れたことがない
真佐美は「キカイダー01」と勝手に名付けて
とても大切にしてくれた
10044-2 11043
私達二人は
休日はもちろん
平日も時間が許す限り同じ時を重ねた
それは私にとって生きる糧そのものになってゆく
一緒にいるだけで幸せで
他には何も要らないと心の底から想っていた
K4-1 K4-2 K4-3 09041-2 13046-3 12045-2 14048 15052-2
私の車はMTだったが
教習所以来MTを運転したことがないという
真佐美はまたまたMTに興味しんしん
「運転してもいい」と聞く一言に
ちょっとコツを教えるとたちまち乗りこなした
真佐美は私の車のことも気に入ってくれて
訳あって手放すことになった時は
とても悲しそうにしていた
そんな真佐美が車を買うことになり 
選んだのはユーノスロードスター
もちろんMTなユーノスを手足のように操り
ワインディングロードでは
男顔負けのスピードで駆け抜けた
その後子供が生まれてからもユーノスは
わが家で「ちっちゃい車」と
親しみを持って呼ばれ
二人乗りながら三人で仲良く乗っていた
それでも流石に限界が来て
買い換えることになった時
今度はとても悲しそうな顔をする娘と共に
ユーノスが去るのを見送った
その日の夜中娘が突然
「ちっちゃいくるま〜」と寝言で叫んだのを
今でもはっきりと覚えている
18059-2
同じ季節が何回か過ぎ去り
重ねる日々は二人の想いを深めてゆく
それでも
わかっていたこととはいえ
二人の道に立ち塞がる障壁は
思ったよりも高く厚い
その道の先に確かなことは何もなく
どこに続くのかもわからない
歩いては立ち止まり
そしてまた歩く 
ただただ 
次の道へと続いていることを信じて
歩いても
どこまで歩き続けても
その障壁は高くなるばかりに思えた
そして
この夢のような日々から
覚めてしまう事を恐れるばかりでなく
覚悟していた
16055-2 19060-2-2 17056-2-2 22064-2 23065-2 25IMG0044
欲張るだけでは前に進めない
少なくとも二人の想いは同じ
真佐美と出会えたことそのものが
奇跡
いちばん大切な人と
わかちあえればそれでいい
20IMG0026 24IMG0047 26IMG0053
未来への道程が見えかかって来た頃
また違う困難が待っていた
真佐美は体調が急変
劇症的な症状を伴って緊急入院
いたって元気そうに見えていたが
実のところ深刻な病を抱えていた
一日も早い回復を祈る中 
入院生活の中で医師から告げられた言葉は
とても悲しいものだった
「この病気とうまくつきあっていきましょう」
えっ 治らないのか
「子供を授かることは難しいかもしれません」
そんな受け入れがたいこと
静かに耐える真佐美がとても愛おしく思えた
21061-2
そして気がつくと 
二人の想いを重ねた歳月は五年近く
結婚式当日は 
珍しく大阪の町にも雪が降り積もり 
真っ白になった世界が祝福してくれた
授かった尊い命に流す大粒の涙は
儚い結晶よりも美しく
祝福されての飛び切りの笑顔は 
きらめく結晶よりも眩しかった
27940211-2
授かった命はとても不安定で 
真佐美は病院で長期に渡りベッドに釘付けの生活
薬の副作用か
手足は猿のように毛だらけになりながらも 
ひたすらおなかの中の子を想っていたに違いない
もう一人のいちばん大切な人が生まれた日は 
とてもとても陽射しが強く暴力的に熱い夏の日
二人の元気な姿と安堵に満ちた空気
そんなごく普通の幸せに包まれた
本当にようやくという感じでやってきた
病院を後にする日
その時に写した娘を抱いた一枚の写真
この子を想う気持ちで溢れんばかりの表情
真佐美はこの写真が気に入ったらしく 
結婚式の写真から作ったテレホンカードと一緒に 
肌身離さず持ち続けていた
28069-2
何があろうとずっと二人の味方でいよう
何があろうと二人を守り続けよう
何があろうとずっと抱きしめていよう

I appreciate the miracle that I have met you

2 コメント

  1. “すぎちゃん”

    「奥様が全て」と「何があろうと二人を守り続けよう」とおっしゃる貴殿のお気持ちがきっと伝わりますよ。
    貴殿は私よりも少しばかり年上、奥様はママリンより少しばかり年下です。
    つまり同じような年齢層にいます。
    更に同じような状況を持ち合わせています。
    詳しいことはWeb上では申し上げませんが、何かの機会におお伝え出来ればと思います。
    とにかく、奥様を大切にしてあげて下さい。
    地球上のどんなものより大切でどんなことがあっても寄り添っていなければならない筈ですから!

  2. パンダ

    すぎちゃんさん

    そうですか。同じような年代なんですね。
    そのことは嬉しく思いますが、同じような状況でないといいのですが…
    機会があれば、お話したいところですね。
    ありがとうございます。

コメントを送信