2008年5月18日
三重県 熊野市 大又川 西谷
PENTAX K20D smc PENTAX DA55-300mmF4-5.8ED
何年も前から憧れていた谷がある。それは、台高の南端、南紀の名渓西谷、そこには厳しい遡行が待っていた。
無名の大滝と蛇の目滝を懸けるこの谷は、もう完全に沢屋さんの世界で容易には近づけそうにない。深い淵や釜は泳いで突破、また二本の大滝の困難な高巻きが待っている。ガイドブックやネットの情報を参考に計画を立てるも、はっきりしない部分が多い。しかし、蛇の目滝は通常右岸から高巻くらしいが、この高巻きを左岸から間違って登り、林道に出てしまったとのレポがある。そこで、泳ぎは避けて全て巻く、蛇の目滝は巻かずに左岸を林道まで這い上がる。これしかないという計画で出撃。はたしてうまくいくのか、うまくいったからこれを書いているのだが…
R169をひたすら南下して三重県に入り、土場隧道を出たところ直ぐの未舗装の林道を行く。車止めゲートの付近に駐車。今日は、山羊のフェルト靴、下着からウィックロン等のハイテク素材で全身を包み、頭には真新しく鮮やかな赤のヘルメットを被せた。とりあえず気分と格好だけは、沢屋だ。
PENTAX K20D smc PENTAX DA12-24mmF4 ED AL[IF]
適当な所を降り、直ぐの堰堤を左岸から越えて伏流となった河原を歩いていく。少し肌寒いものの気持ちのよい日差しが差し込んでくる。しばらく行くと水が出てきてゴルジュ状となり小滝が連続してくる。特に悪場はなく快調だ。また、左岸には所々杣道が残っていて、崩壊箇所はあるが、結構利用できる。谷が突き当たりになり、大きな釜の所で右に曲がっている。そしてこの釜に10m程度の滝が落ち非常に美しい。しかし、ここから奥に続くゴルジュは暗く、いかにも悪そうな雰囲気を漂わせている。
この滝を左岸から越えてしばらく行くと、両岸がハング状に立って極端に狭まった行合い、そこに3mの滝、手前の釜は深く近づけない。沢屋さんなら泳いで突破するところらしいが、背中に機材を背負っている身としては高巻くしかない。左岸岩壁の際に沿って登って行く、たった3mの小滝を越えるのに大きく大きく高巻いて行く。最後に少し壁を攀じ登り、壁の頂点を際どくトラバースして、また沢床に降りた。
PENTAX K20D smc PENTAX DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDM
そしてまたまた壁に挟まれた滝が登場、ガイドブックによると右岸バンドに乗ってダイレクトに登るとある。飛沫の飛び散る中を慎重に近づき、バンドに手を伸ばして「えいやー」と懸垂状にトライするが、壁がやや高く右足が懸からない。2回、3回と続けて失敗、だんだん手の力が無くなってくる。次に決めなければ絶対に無理だ。足下を見ると、全く無防備のイモリが「何かあったの」という感じでじっとしている。手で持っても全く動じない。どうしたものかと腕の体操をしながら壁の弱点を探ると錆びついて保護色となり気付かなかったが、残置ハーケンがあるではないか。がっちり食い込んでいるのを確認し再トライ、壁にぶら下がりハーケンに右足を載せて何とか登って滝の頭に出た。
PENTAX K20D smc PENTAX DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDM
そして豪快な無名の大滝が姿を現す。岩壁が張り出して全貌は見えないが大迫力だ。前衛の滝の右を登り大滝に近付いていく。滝前に立つと、大きな釜に深く吸い込まれそうな水を湛え、50mはあろうかという高さから瀑水を落としている。この釜は予想外で周りの岩壁とそこに突き刺さる瀑水と波が素晴らしく、しばし見とれてしまう。
PENTAX K20D smc PENTAX DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDM
PENTAX K20D smc PENTAX DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDM
さあ、この大滝の高巻きだ。下の滝の落ち口を右岸に渡り、岩を攀じて樹林帯の中を登って行く。途中からトラバースして流身へ近付いていくが、かなり高度感があり、全く気が抜けない。それにしても凄い眺めで、迫力の流身が目前に迫ってきた。撮影したい衝動に駆られるが、あまりに危険を感じ断念。最後は、落ち口に連なる岩壁のバンドを伝うらしいが、怖くて行けそうにないので、さらに高く巻いて安全なルートを取り少し奥の床に降りた。
PENTAX K20D smc PENTAX DA12-24mmF4 ED AL[IF]
PENTAX K20D smc PENTAX DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDM
大滝の上は穏やかな流れで癒しの空間が広がっている。この後、幾つかの小滝を越えていくと、いよいよ連瀑帯の向こうに待望の蛇の目滝が見えてきた。前衛三段の滝を次々と越え、ついに蛇の目滝の前に立った。感無量である。両岸高い壁が立ち、それを割って天空から降り注ぐ。少し前から天候が急速に悪くなり小雨まで降ってきた。暗く幽玄な景観に包まれ、人を寄せ付けない威圧感に恐ろしささえ感じる。
PENTAX K20D smc PENTAX DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDM
PENTAX K20D smc PENTAX DA55-300mmF4-5.8ED
PENTAX K20D smc PENTAX DA55-300mmF4-5.8ED
最後の登りは、谷を少し戻り左岸の細い枝沢に取りついた。狭い流れの中を濡れながら腕力で強引に登って行く。直ぐに登れなくなり、巻き気味に横の木々を掴んで急坂をゼーゼー言いながら登る。やがて水が涸れ、細い沢はガレになってきた。落石に注意しながらさらに登って行くとザレになるが、足が滑って進めなくなる。またまた横に逃げ、草や木を掴んで最後の力を振り絞り林道に辿り着いた。
PENTAX K20D smc PENTAX DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDM
林道を少し奥に行くと蛇の目滝が落ちていくのと枝沢の滝が木々の間から見え、遥か下に谷底がある。林道を逆に下って行くと、カーブミラーの所に張り出した部分があり、そこは視界が開けた絶好のビューポイントになっている。上から見る蛇の目滝は、一転して優美な姿で誠に美しい。水量が少ないながらも枝沢の長瀑もはっきりと見える。林道からの下降等はかなり危険で安易に考えないでほしいが、ここからの眺めも素晴らしく訪れる価値があると思う。ところで、蛇の目滝の滝名はどこから来たのだろうか。
こんばんは。
やはり、そっちの大又川でしたね。
真剣に考えられた結果の安全対策「赤いヘルメット」を着帽した「沢屋」の貴殿の勇姿が目に浮かびます(笑)。もはや立派な沢屋です。彼らの危険軽減の基本は「低く、短く」…=「泳ぐ」ですから、水にデリケートなカメラを携行しているが故に危険で長い「高巻き」を選択せざるを得ない貴殿の沢登り難度は、彼らを凌いでいます。今回の感無量を節目に、これからはくれぐれも「無事に帰るための遊び」を通して我々”パンダ・ファン”に、自分たちが近づくことのできない”紀伊の美獏」を届けてくださることを祈ります。
K2さん
いつも応援ありがとうございます。
あそこもここも行きたいと悩む日々ですけど、「無事に帰るための遊び」を心して楽しみたいと思います。
こんばんは~
おぉぉ!蛇の目直下!
すごいですね~
っていうかパンダさんって沢屋じゃなかったんですか?
牛鬼滝の上までいってるから完璧に沢の人だと思ってました
自分は山屋なんで長い分には平気なんですが
こういうきわどいのはいけないので羨ましいです
再です。
私、大きな勘違いというか、記憶が曖昧でした。大又川は、尾鷲の高峰山がが水源で、北山川に出合い、R169を沿って南下、七色狭、瀞狭を経て熊野川に出合い、新宮に注いでいたのですな・・・・、お恥ずかしい。いずれにしても、私ごときが近寄れる場所ではありません。
ちなみに、前回コメントの三之公伝説は、平家の落人の歴史も近くにあるようですが、後南朝の落人伝説の地でした。俄か勉強ばかりですみませんm(_ _)m
三重の汚点さん
はい、写真屋と言われれば否定しませんが、山屋でも沢屋でもないです。
三重の汚点さんもデジマンさんところで岩屋谷の報告されてましたけど、雌滝、雄滝の制覇すごいです。私はまだ行ける目処が立っていません。
登山道からの下降の危険、単独行の問題、下から遡行すると長いので沢中泊(未体験)になりそう等いろいろ悩んでいます。
もしよろしければ、日程やルート等を教えていただければ幸いです。
K2さん
歴史については私も不勉強で??です。
東吉野村の大又川あたりも綺麗なところですね。新緑時はもちろん、川沿いに立派なモミジの木がたくさんあって紅葉が非常に良かった記憶があります。
岩屋谷ですか?
あれは読図が凄い人と一緒だったから行けた感じですね~
どの谷を降りればいいか上からでは読めないですね
瑠璃さんとデジマンさんのHPを参考に後は読図で降りました
同行者が黄テープをまきつけてたので目安にはなるかもです
こうか降下は浮石だらけのルンゼを使いますが
牛鬼上とか蛇の目ほどはやばくないと思います
タイムの詳細は長いですけどココに貼り付けていいですか?
メールのがいいでしょうか?
簡単にいうと撮影3時間半含んで14時間30分の日帰り
行ったメンバー三人ともヘッドライト山行経験者なんで
ヘッドライトで下山しました
三重の汚点さん
上から降下されましたか。それに14時間30分、ヘッドライト、やっぱり単独行は厳しいですね。
ヘッドライトでの下山は、一度だけ経験がありますが、簡単なルートでも本当に分かりにくかった覚えがあります。
何とか安全に雌雄両滝の訪問を考えているのですが、今のところ名案がありません。
下流にも立派な滝があるようで、いろいろ悩みます。
どうもありがとうございました。
無事のご帰還おめでとうございます。
西の又は、私も実は気になっておりました。
支谷の70m、蛇の目の美しい50m、この谷の美しさを見事に切撮られていますね。
この時期不快な害虫などは多いですが、新緑の美しさも格別なのでできるだけ外出したいところですね。
くれぐれも安全な高巻き沢歩きに配慮頂き、また何かの機会がございましたらご一緒頂ければうれしく思います。
そういう私もヘルメットは新調します。
前回で懲りました(笑)
ふぇるめーるさん
ありがとうございます。
この時期、蛭がここぞとばかりに活躍するので困ったもんです。
この前は、摺子谷でルートを誤り、心身ともにへとへとになりました。
ヘルメットは鬱陶しいと思っていましたが、精神的にも一寸引き締まる感じがして良いかもです。
次は、ふぇるめーるさんお勧めのアクアステルスを試そうと思っています。
では、またご一緒できる機会を楽しみにしています。
ご無沙汰しています。えだ2です。
昨日、パンダさんのナイスなルートのアイディアと
濡れないと知り蛇の目滝を見てまいりました。
ありがとうございました。
少々危険でしたが最高でした!
えだ2さん
蛇の目滝、なかなかいいですよね。
夏場に思い切り濡れて行くのもいいですよ。
機会があれば、また楽しんできてください。